カテゴリー:青空文庫

  • 山本 周五郎:赤ひげ診療譚 06 鶯ばか

    2018-11-22公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:北川松生  (23k/64k)  “一 俗に「伊豆さま裏」と呼ばれるその一帯の土地は、松平伊豆守の広い中屋敷と、寛永寺の塔頭に挾まれて、ほぼ南北に長く延びていた。表通りには僅かばかりの商店と、花やあか桶を並べた寺茶屋があるほかは、商家のつつましい隠宅とか、囲い者、かよい番頭などの、静かなしもたやが多く、だが、五筋ある路地へはいると、どの路地も左右の棟割り長屋が軒を接していて、馴れない者にはうっかり通ることができないほど、いつもうす…
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  • 会津 八一:趣味の修養

    2018-11-21公開  入力:フクポー, 校正:杉浦鳥見  (6k/10k)  “何處までも/\芋畑や雜木林ばかりで退屈な汽車の窓に、小ぢんまりとした木立が見えて、それが近づくにつれて庭には草花が綺麗に咲かせてあつて、その中に白い鷄が遊んで居る、家の造りも面白い、こんな時に、飛ぶやうに通り過ぎて行く旅人の目にも、先づ床しいものは其家の主人である。また裏長屋の軒竝を歩いて居るうちに、不圖ある家の窓から床の間の一軸、それが名も無い畫家の作であるかも知れぬ、その前に活けてある花瓶が市價…”…
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  • 小川 未明:だまされた娘とちょうの話

    2018-11-20公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:酒井裕二  (7k/42k)  “弟妹の多い、貧しい家に育ったお竹は、大きくなると、よそに出て働かなければなりませんでした。 日ごろ、親しくした、近所のおじいさんは、かの女に向かって、 「おまえさんは、やさしいし、正直であるし、それに、子供が好きだから、どこへいってもかわいがられるだろう。うらおもてがあったり、じゃけんだったりすると、きらわれて出世の見込みがないものだ。東京へいったら、からだを大事にして、よく働きなさい。」と、希望…
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  • 小川 未明:引かれていく牛

    2018-11-20公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:酒井裕二  (3k/16k)  “もうじきに春がくるので、日がだんだんながくなりました。晩方、子供たちが、往来で遊んでいました。孝ちゃんと、勇ちゃんと、年ちゃんは、石けりをしていたし、みつ子さんとよし子さんは、なわとびをしていました。 うす緑色の空に、頭をならべている木々のこずえは、いくらか色づいているように見えました。いろいろの木の芽が、もう出ようとしているのです。 ちょうど、このとき、あちらから黒いものが、こちらへ、のそり、の…
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  • 北大路 魯山人:一茶の書

    2018-11-19公開  入力:門田裕志, 校正:きゅうり  (2k/5k)  “われと来て遊べや親のない雀 痩蛙まけるな一茶是に有り  一茶自身の運命にも、なにかそうしたところがありはしなかっただろうか。 それはともかくとして、その書であるが、素質的にいって、大徳寺代々のうちでの随一の能書家(これは私の独断であるが)春屋禅師の書、池野大雅の書、良寛和尚の書、茶人元伯、原叟などの書などと共通なところを持っているかのように思われる。 しかし、これらのうちで、一茶の書には、一番に下手…”…
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  • 徳田 秋声:ある夜

    2018-11-18公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:久世名取  (5k/10k)  “彼は此頃だらけ切つた恋愛に引摺られてゐることが、ひどく憂鬱になつて来た。その日も彼女は娘をあづけてある舞踊家のF――女史のところへ、二三日うちにあるお浚ひのことで行くと言つて家を出かけるとき、 「帰りに武蔵野館に好い写真がかゝつてゐるといふから、ちよつと見て来ようと思ふの。先生もお差閊なかつたら、入らつしやいませんこと?」と彼を誘つた。 彼は以前は余り見なかつた活動を、彼女がゐるために時々見る機会…
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  • 徳田 秋声:二つの失敗

    2018-11-18公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:久世名取  (9k/19k)  “空の青々と晴れた、或る水曜日、青木は山の手の支那料理採蘭亭で、或るダンサアと昼飯を食べる約束があつたので、時刻を計つてタキシイで出かけた。町は到る処野球試合の放送で賑はつてゐた。素から知らない顔でもなかつた採蘭亭のマダムを、或晩或ダンスホールでそこのダンサアに更めて紹介されてから、紹介したそのダンサア達と一緒にそこで会食したのは、最近のことであつた。採蘭亭は崩壊した或る有名な実業家の豪奢な屋敷跡で…
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  • 野村 胡堂:銭形平次捕物控 064 九百九十両

    2018-11-17公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:結城宏  (17k/49k)  “一 「親分」 「何だ、八」 「腕が鳴るね」 ガラッ八の八五郎は、小鼻をふくらませて、親分の銭形平次を仰ぎました。 初夏の陽を除け除け、とぐろを巻いた縁側から、これも所在なく吐月峰ばかり叩いている平次に、一とかど言い当てたつもりで声を掛けたのでした。 「腕の鳴る面かよ、馬鹿野郎、近頃お湿りがないから、喉が鳴るんだろう」 「違えねえ」 平掌で額をピシャリ。この二三日スランプに陥っている平次から、この痛…
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  • 林 芙美子:旅人

    2018-11-16公開  入力:しんじ, 校正:阿部哲也  (9k/19k)  “斷崖絶壁の山道を往復四十里して、吉野川の下流、白地の村まで下つて來ると、恍惚の景色にも大分辟易して來てゐて、乘合自動車もろとも、河の中へ眞逆さまに落ちこんでしまひたくなつてゐる。 祖谷の山々が黄昏の彼方にかすみ、東京も遠いのであつたし、何も彼もが夢のやうである。谷間のなかには、大した人の名もなければ、大した富もなく、侘しさは侘しさのまゝに麥を植ゑ、河に魚をとつて暮してゐると云ふ、旅人の好くやうな靜か…”…
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  • 林 芙美子:なぐさめ

    2018-11-16公開  入力:しんじ, 校正:阿部哲也  (8k/17k)  “一 美しい東京の街も、この數ヶ月の激しい變化で根こそぎ變つてしまひ、あの見果てぬ夢のやうな、愛しい都會のいとなみが、もう何も彼もみぢんにくだかれてしまつた。歩いてゐるひとたちは、長い戰爭の苦しかつた殘酷な思ひ出に、若いひとまで表情のどこかに皺をつくつて、苦味と落膽とで呆んやりした姿で歩いてゐる。 戰爭のためにおほかたの家がなくなつたことは勿論だけれども、第一、食べることが極度に苦しくなり、工面をして…”…
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