タグ:青空文庫

  • 徳田 秋声:ある夜

    2018-11-18公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:久世名取  (5k/10k)  “彼は此頃だらけ切つた恋愛に引摺られてゐることが、ひどく憂鬱になつて来た。その日も彼女は娘をあづけてある舞踊家のF――女史のところへ、二三日うちにあるお浚ひのことで行くと言つて家を出かけるとき、 「帰りに武蔵野館に好い写真がかゝつてゐるといふから、ちよつと見て来ようと思ふの。先生もお差閊なかつたら、入らつしやいませんこと?」と彼を誘つた。 彼は以前は余り見なかつた活動を、彼女がゐるために時々見る機会…
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  • 徳田 秋声:二つの失敗

    2018-11-18公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:久世名取  (9k/19k)  “空の青々と晴れた、或る水曜日、青木は山の手の支那料理採蘭亭で、或るダンサアと昼飯を食べる約束があつたので、時刻を計つてタキシイで出かけた。町は到る処野球試合の放送で賑はつてゐた。素から知らない顔でもなかつた採蘭亭のマダムを、或晩或ダンスホールでそこのダンサアに更めて紹介されてから、紹介したそのダンサア達と一緒にそこで会食したのは、最近のことであつた。採蘭亭は崩壊した或る有名な実業家の豪奢な屋敷跡で…
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  • 野村 胡堂:銭形平次捕物控 064 九百九十両

    2018-11-17公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:結城宏  (17k/49k)  “一 「親分」 「何だ、八」 「腕が鳴るね」 ガラッ八の八五郎は、小鼻をふくらませて、親分の銭形平次を仰ぎました。 初夏の陽を除け除け、とぐろを巻いた縁側から、これも所在なく吐月峰ばかり叩いている平次に、一とかど言い当てたつもりで声を掛けたのでした。 「腕の鳴る面かよ、馬鹿野郎、近頃お湿りがないから、喉が鳴るんだろう」 「違えねえ」 平掌で額をピシャリ。この二三日スランプに陥っている平次から、この痛…
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  • 林 芙美子:旅人

    2018-11-16公開  入力:しんじ, 校正:阿部哲也  (9k/19k)  “斷崖絶壁の山道を往復四十里して、吉野川の下流、白地の村まで下つて來ると、恍惚の景色にも大分辟易して來てゐて、乘合自動車もろとも、河の中へ眞逆さまに落ちこんでしまひたくなつてゐる。 祖谷の山々が黄昏の彼方にかすみ、東京も遠いのであつたし、何も彼もが夢のやうである。谷間のなかには、大した人の名もなければ、大した富もなく、侘しさは侘しさのまゝに麥を植ゑ、河に魚をとつて暮してゐると云ふ、旅人の好くやうな靜か…”…
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  • 林 芙美子:なぐさめ

    2018-11-16公開  入力:しんじ, 校正:阿部哲也  (8k/17k)  “一 美しい東京の街も、この數ヶ月の激しい變化で根こそぎ變つてしまひ、あの見果てぬ夢のやうな、愛しい都會のいとなみが、もう何も彼もみぢんにくだかれてしまつた。歩いてゐるひとたちは、長い戰爭の苦しかつた殘酷な思ひ出に、若いひとまで表情のどこかに皺をつくつて、苦味と落膽とで呆んやりした姿で歩いてゐる。 戰爭のためにおほかたの家がなくなつたことは勿論だけれども、第一、食べることが極度に苦しくなり、工面をして…”…
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  • 小山 清:遁走

    2018-11-15公開  入力:kompass, 校正:酒井裕二  (9k/21k)  “私は中学校の三年生のとき、家出をしたことがある。原因はいまだから話すが、幾何の宿題をなまけて、先生から叱られるのが恐かったからである。 私の学校の幾何を担任していた先生は、とても恐かった。まだ若い人だったが。独身だったか、妻帯していたか、そんなことはわからない。いま想像してみても、どちらとも見当はつかない。独身であったかも知れないし、あるいは妻帯していたかも知れない。色黒で、痩せていて、目が光ってい…”…
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  • 小山 清:西隣塾記

    2018-11-15公開  入力:kompass, 校正:酒井裕二  (17k/44k)  “こないだ電車の中で新国劇の「大菩薩峠」上演の広告ビラを見かけた。中里介山居士追善興行としてあった。この芝居の上演も久し振りな気がする。介山居士は戦争中、生れ在所の西多摩郡の羽村で急逝された。あれは何年のことであったろうか。救世軍の秋元巳太郎氏が葬儀委員長をされたという簡単な新聞記事を読んだ記憶がある。逝くなられた月日のことを私は覚えていない。また今年は何回忌に当るのか、それも知らない。 私は嘗て介山…”…
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  • 亀井 勝一郎:家族といふもの

    2018-11-14公開  入力:大久保ゆう, 校正:noriko saito  (4k/8k)  “青年時代に、自我にめざむるにつれて、人は次第に家族から孤立せざるをえないやうになる。自分の友情、恋愛、求道については、両親は必ずしも良き教師ではない。むしろ敵対者としてあらはれる場合が多いであらう。これは家族制度そのものの罪とのみは言へまい。どのやうに自由な家族であつても青年はひとたびは離反するであらう。孤立せんとする精神にとつては、与へられたものはすべて不満足なのだ。これは精神形成の性質から云つて…
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  • スティーブンソン ロバート・ルイス:帽子箱の話

    2018-11-13公開  入力:門田裕志, 校正:sogo, 翻訳:佐藤 緑葉  (23k/52k)  “十六歳まではある私立の學校で、それから後は英吉利がそのために有名になつてゐるある大きな學園の一つで、ハリー・ハートリー氏は、紳士としての普通の教育を受けた。その頃彼はもう勉強が厭でたまらなくなつてゐた樣子だつた。そして彼のたゞ一人の生き殘つてゐる親は、からだも弱く、頭もなかつたので、その後はつまらぬ、上品な遊藝の修業などに暇をつぶしても、別に故障を言ふものもなかつた。それから二年の後に彼は孤兒…
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  • スティーブンソン ロバート・ルイス:若い僧侶の話

    2018-11-13公開  入力:門田裕志, 校正:sogo, 翻訳:佐藤 緑葉  (16k/34k)  “サイモン・ロールズ師は倫理學でも名の聞こえた人だつたが、神學の研究でも竝々ならぬ練達の士であつた。彼の「社會的の義務に關する基督教義に就て」と題する論文は、それが出版された當時、牛津大學で相當な評判となつたものであつた。また僧侶や學者の仲間では、若いロールズ氏が教父の權能に關する大著述――それは二折本になるといふ事だつた――を考へてゐるといふ事も一般に知られてゐた。だが之等の學識も、功名心に滿…
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