カテゴリー:青空文庫

  • 林 芙美子:うき草

    2018-06-28公開  入力:しんじ, 校正:阿部哲也  (10k/22k)  “その村には遊んでゐる女が二人ゐた。一人はほんの少しばかり氣がふれてゐるさえといふ女で、三年ほど前、北支那へ行つてゐて、去年の夏、何の前ぶれもなくひよつこり村へかへつてきた。 さえの家は炭燒きをしてゐたのだけれど、父親はもうずつと以前に亡くなり、たつた一人の兄は二度も兵隊にとられて、その二度目の戰場生活はもう三年ばかりになり、何でもビルマの方へ行つてゐるらしいといふ話であつた。――さえの家庭は母親のし…”…
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  • 林 芙美子:暗い花

    2018-06-28公開  入力:しんじ, 校正:阿部哲也  (13k/27k)  “いつものやうに、ハンカチーフ一枚で朝湯に飛び込んだ。どこかのお神さんらしい一二度、この風呂で出逢ふ女が、もう、小太りな、眞白い躯を石けんで流してゐた。向うもつんとしてゐるから、こつちもつんとしてゐる。男湯の方は馬鹿に森閑としてゐた。房江は一人でのびのびとあをむけに湯につかつて、高い天井を眺めてゐた。熱くもなく、ぬるくもなしの湯かげんで、これが電氣で沸くのかと、房江はうつとりとなつて、まづ氣持ちのいゝ…”…
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  • 佐藤 春夫:小泉八雲に就てのノート

    2018-06-27公開  入力:えんどう豆, 校正:津村田悟  (4k/7k)  “小泉八雲全集を読んで一番感心することは、この詩人が同時にえらい批評家だといふ一事である。正岡子規が一面に於て大批評家を兼ねてゐたのと好一対である。この事は一見意外のやうでもあるけれども、別に不思議ではない。何者であらうとも一家をなす程の人には一家の識見は厳として具はつてゐるものである。それだけの識見を持てないやうな人は、たとひ多少才能があつたにしても才能は仕事するごとに磨減してしまつて決して大をなす…”…
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  • 小泉 八雲:勇子 一つの追憶

    2018-06-27公開  入力:林田清明, 翻訳:林田 清明  (8k/15k)  “明治二四年五月五日 一八九一年 誰か賢き女を見出すことを得んや――その値打ちはなはだ高貴なりラテン語訳聖書 「天子様 御心配」天子様が畏れ多くも悲しんでおられる。 街中が異様なまでに静まり返っており、まるで公の喪に服したように厳粛な雰囲気である。通りでは物売りたちですらいつもよりも低く呼び声を挙げている。普段だと朝早くから夜遅くまで開場している劇場や芝居小屋もみんな閉じている。どこの娯楽施設も同じよ…”…
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  • 大隈 重信:文明史の教訓

    2018-06-26公開  入力:フクポー, 校正:門田裕志  (5k/14k)  “歴史は活躍す 世人は歴史について、ややするとかかる誤想を懐きはすまいか。歴史は過去の出来事を記述したり考証したり、つまり死んだ事件を取調べる検査官のようなものであると。しかし我輩は歴史学に対してかかる要求はせぬのである。歴史学という一の科学の一要素として、過去の事実を可成的冷静に考証したり、取調べるということも必要であるに相違ないが、但しそれは歴史の研究の全体ではない。頭脳の大なる人、乃至活学者には…”…
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  • 大隈 重信:吾人の文明運動

    2018-06-26公開  入力:フクポー, 校正:門田裕志  (8k/24k)  “諸君、本日は大日本文明協会のために諸君に一言するの機会を得たのを喜ぶ。我輩は実にほとんど五十年、即ち半世紀間、帝国文明のために全力を委ねておるものである。現在に於ても、また将来に於てもそのために畢生の力を尽して自己の生命の有らん限り、この運動を続けようと思う。我輩が大日本文明協会会長としてその名を表しているゆえんは全くこの我輩の志を表しているのである(拍手喝采)。 〔維新・復古と文明的運動〕 文明と…”…
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  • 中原 中也:引越し

    2018-06-25公開  入力:村松洋一, 校正:noriko saito  (8k/15k)  “実際その電報には驚いた。僕としてそんな用命にあづかつたことは生れて初めてでもあつた。「アスアサゴジヒキコシテツダヒタノム」といふのだ。朝五時!……僕は此の十幾年といふもの夜昼転倒の生活をしてゐるのだ。それを電報打つたその親戚も知らないわけでもないのだ。驚いたといふよりも癪に障つたね。三十年近く広島といふお天気の好い街の教会で伝道婦として働いたその叔母の甘えた気持が――といつて別に当人甘えたといふので…
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  • 中原 中也:古本屋

    2018-06-25公開  入力:村松洋一, 校正:noriko saito  (3k/5k)  “夕飯を終へると、彼はがつかりしたといつた風に夕空を眺めながら、妻楊子を使ひはじめた。やがて使ひ終つてその妻楊子を彼の前にある灰皿の中に放つた時、フツと彼は彼の死んだ父親を思ひだした、その放る時の手付や気分やが、我ながら父親そつくりだつたやうな気がした。続いて、「俺も齢をとつたな……」と、さう思つた。 それから彼は夕刊をみながら、煙草を吹かすのであつた。 年来の習慣で、彼は夕飯を終へると散歩に出掛ける….
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  • 野村 胡堂:銭形平次捕物控 032 路地の足跡

    2018-06-24公開  入力:特定非営利活動法人はるかぜ, 校正:北川松生  (15k/43k)  “一 「銭形の親分さん、お助けを願います」 柳原土手、子分の八五郎と二人、無駄を言いながら家路を急ぐ平次の袖へ、いきなり飛付いた者があります。 「何だ何だ」 後ろから差し覗くガラッ八。 「どこか斬られなかったでしょうか、いきなり後ろからバサリとやられましたが――」 遠灯に透かせば、二十七八の、芸人とも、若い宗匠とも見える一風変った人物。後ろ向きになると、絽の羽織は貝殻骨のあたりから、帯の結びっ玉の…
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  • 壺井 栄:一つ身の着物

    2018-06-23公開  入力:大久保ゆう, 校正:noriko saito  (7k/14k)  “赤ん坊の名を右文といった。生後一年で孤児になり、私の家へくることになった。赤ん坊のひいおばあさんにあたる人からこの話をもちこまれる前に、私たち夫婦はもうその覚悟でいたのだが、いよいよとなると、さまざまな難問題が湧いてきた。しかし、だからといって肩をはずすわけにも行くまいと考えられたので、とにかく引き取ろうということになった。その中どこからか救いの手がのびてくるだろうという空だのみもあったし、また一…
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